(10)最後の仕事半日ガイド体験記 (2004年6月の記録) ∬第10話 最後の仕事 アンタルヤからディナール、パムッカレに向かうには、我が家への道を途中で右折することになる。 私はミグロスの見える大きな交差点まで乗せてもらい、バスの中でお別れの挨拶をすることにした。 「皆さま、わずか半日でしたが、お付き合いいただきましてありがとうございました。 私自身とても楽しく過ごさせていただくことができました。 まるで・・・添乗員に戻ったような気分です。 皆さまの旅はちょうど中間地点。これからさらにパムッカレ、エフェソス、イズミール、そしてイスタンブールと旅を続けていかれます。 どなた様も体調を崩されることなく、事故や怪我もなく、日本にお帰りになるまで無事に旅を続けていかれますよう、心からお祈りしております。 皆さま、本日はどうもありがとうございました!」 久し振りの別れの挨拶。 言葉を選ぶ余裕はなかった。私の記憶のどこかに仕舞われていたこんな時のお決まりの言葉が、自然に口をついて出てきた。がしかし、これは社交辞令でなどなく、私の本心だった。 実際、7年半のブランクを越えてまるで現役に戻ったかのように、この半日、私は生き生きしていた。 それに、たった半日、たった数時間の短い出会いだからこそ、グループへの親しみ、愛着がいちどきに高まったのだと思う。皆さん、いい人ばかり。そんな印象だけいただいて帰れる私は幸せだった。 大きな拍手を受け止めながら、マイクをガイドに渡して席に着いた。 フロントガラスを見ると、雨の滴が点々とついていた。お天気雨だった。 ガイドのビルゲさんは、これまたお決まりの文句で皆を沸かせていた。 「これはお別れの涙です。アンタルヤとのお別れ、turkuvazさんとのお別れ、皆んなと別れるturkuvazさんの涙ね」 苦笑しながら、でもひょっとしたら、そうかもね、と思った。 交差点の赤信号でバスが止まった。 横田さん、ガイドのビルゲさんと強い握手を交わし、全員に手を振ってバスを降りた。 弾む足どりで横断歩道を渡ると、お土産にいただいたおにぎりの袋が揺れた。 右折信号が青になったらしい。バスの方向を振り返った。ゆっくりと右折を始めたバスに向かって手を振ると、ガラス越しに皆が手を振り返してくれるのが見えた。スピードを上げ走り去っていくバスを見送ると、私は目加田さんと子供たちの待つ自宅めざして、小走りに駆けていった。 (おわり) ジャンル別一覧
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